音痴とは友達になれない
人生で三度だけ、マジの音痴に出会ったことがある。
一人目は、高校一年生の時に同じクラスだったKちゃん。
Kちゃんは、ギャルっぽい見た目に反してとても穏やかで良い子だった。誰かが落ち込んでいると真っ先に気付いてそっと手を差し伸べてあげるような子。
Kちゃんの歌を初めて聞いたのは、入学してすぐのクラス親睦会だった。自分が何を歌ったかは1ミリも覚えていないのに、Kちゃんが歌った曲、歌う姿、場の空気、などはいつまで経っても私の海馬101号室に存在している。
忘れもしない、Folder5の「Believe」。そう、ワンピースのあの曲。Kちゃんはあの曲を、見事に外しまくって歌い上げたのだ。
それ以来私の中でKちゃんは、上辺度83%の友達となった。83%を具体的に解説すると、Instagramは友達だけど街で見かけても声はかけない、といったところだろうか。
二人目は、前に勤めていた会社の先輩。
ちょっと強面でいつも無表情だが、私が入社したての頃にとても良くしてくれて、色んなことを教えてくれた。
この人の定番はワンオク。音痴×ワンオク=世界の終わりである。普段は無表情なのにマイクを握っている時だけ半ニヤな先輩。酔った時が最悪で、かなりのハイペースで曲を入れて来る。申し訳ないが私は個人的に、「この人が曲を入れだしたら帰り時」という目安を設けていた。そして驚くことに、音大出身だった。
三人目は、母の店を手伝っていた際にふらりとやって来たおじさん。
小太りで早口で第一印象からよろしくなかったのだが、歌声を聴き、第八印象くらいまでは確実によろしくないことが予想できた。私はもうただただ、「頼むから常連にならないでくれ」と思いながら、カウンターの下で脳内地団駄を踏んだ。
コブクロの「桜」。ごちそうさまです。
最近新しくクライアントになった先の社長がこんな話をしていた。
「僕はお酒の場でのコミュニケーション信者なので、採用条件に"お酒を飲める方、飲めなくても飲み会の空気を楽しめる方"と記載している。一緒に楽しくお酒を飲める人の方が絶対的に仕事の場でも声をかけやすいし、特に新人はそういう環境でのびのび育って欲しい。」
ほお〜、なるほどね。それで言うと私はカラオケでのコミュニケーション信者といったところだろうか。「カラオケによって生まれるコミュニケーションが好き」な私からしたら、本人に全くの非はなくとも、場の空気をマイナスへ寄せてしまう人はどうもダメなのだ。
あとはもう単純明快に、「親しい友達とはカラオケに行きたい」のである。一緒に酒を飲みながら歌って、わあわあ言ってゲラゲラしたい、のである。そうなった場合、最低限歌えるレベルでないと、結局そこに「気を使う」という行為が発生してしまう。
特にそれ以上言いたいことは無いのだが、そんな感じでとりあえず24年間、音痴な人とは友達になれずに居る私である。
NO LIFE NO LIFE 〜生活を貢いでくれ〜
祝いの席でぐでんぐでんに酔った頭ついでに、ひとつ身を削ろうと思う。
私の性癖のひとつに、「他人の生活」がある。性癖:他人の生活。
何が言いたいかというと、つまりは他人の生活を覗き見るのが好きなのだ。
覗き見ると言っても言葉通りのそれではなくて、例えばほら、それこそブログ。
考えをあれこれ書いてあるものより、なんの変哲も無い、起きてから寝るまでのことを書いているような、ザ・日記が好きなのである。どこの誰かも知らないあんたの等身大の生活が好きだ。難しいことを書かないでくれ。Instagramの「#暮らし」みたいに幸せな生活を送ってるぶらないでくれ。
先月書いた「ほしい物リストってめっちゃエロくないか?」という記事でも顕著に出ているが、これは確実に一種の性癖なのだと確信している。もしも私が考えてること読める系の能力者になったら、「帰りにスーパー寄ってトイレットペーパー買おう」みたいな思考を読んでしまった時点でアドレナリンが上がりすぎて失神すると思う。
あとスケジュール帳。手書きのスケジュール帳。あれに至っては最早見てしまったが最後、三途リバーでRIDE ON WAVEすると思う。逆に見られない。目の前に出さないでくれ。
昨年何度かデートした弁護士の男性が頻繁に私の前で分厚いスケジュール帳を出すもので、あれは本当に困ったよ。
なんなんですかね。なんでこんな興奮するんですかね。
24歳になりました。ハイ。
海より、そこそこの愛を込めて
目を覚ますと朝の5時だった。
外は暑くもなく寒くもなく、とても"ジャスト"な気温だったもので、慌てて顔を洗い、車へ乗り込んだ。
車中では気持ちよく歌い、15分ほど走った先のビーチへ着く頃にはちょうど朝陽が昇っていた。
駐車場には猫がいた。
途中で寄ったコンビニで無糖のヨーグルトを買っていたので、蓋に少し乗せて渡した。
久しぶりに恋をしている。
彼が隣に居たらどんなに楽しいだろうか。きっとこんな日に叩き起こしても怒らずに、一緒にネバーヤングビーチを歌ってくれるのだろう。ベンチに座って朝陽を見る彼の白い頬にそっとキスをしたい。ただただぼうっとこんな事を考えた。
世にも奇妙な処女物語
本能に生かされる
たぶん明日死ぬ
今年何度目の飛行機だろうか。手持ち無沙汰になりがちなので、またこうして雲の上で文字をしゃらしゃら打っている。
私の前の席が少し歳の行ったお父さんと1歳くらいの男の子で、椅子越しに私のことを覗いてきては目が合いにこ〜っとしてくれる。
子供は国の宝なんてしょうもないことを最初に言ったのは誰だ?ま、今なら照れも疑問も迷いも抱かず心に落ちてくるが。チョー可愛い。私みたいな大人にならないでくれ、というほど大した人生も歩んでなければ歪んでもないと思うのでそれなりに普通の人生を歩んでくれ、坊やよ。
私は絵を描くのが好きな子供だった。将来の夢は一貫して漫画家で、小学校高学年〜中学1年生頃に至っては大好きだった雑誌「マーガレット」に描いたものを送ったりもしていた。
その頃同じように雑誌へ投稿していた愛里ちゃんというクラスメイトがいて、あの雑誌の今月号がどうだ、あの作者がこうだ、といった話を彼女とするのがとにかく私にとっての幸せの時間だった。
私はクラスの中心的存在で、彼女はどちらかというとおとなしいグループの子だったが、冷めてるというか個人主義というかフランス的な側面を持ち合わせていた私は思春期においての鉄格子とも取れるクラス内カーストを完全に無視し、彼女との友人関係を続けた。大人になった今もそれなりに仲が良く、年に一、二度突発的に深夜のドライブへ誘ったりする。
漫画家にはなれはなかったものの、それに近いような仕事をしているので私は恵まれているんだと思う。自分の好きな事で飯を食えるというのはこの上なくありがたいことで、リアルな程度二日に一度は仕事が楽しいと感じるし、つい先日好きなバンドから仕事の依頼が来た際は天にも昇る心地だった。
そんな中、珍しく彼女の方から連絡が来た。「東京に居るから、会って話したい」と。何事かと思いつつ、私にしては珍しく酒ではなく茶ミュニケーションを選択し、恵比寿にあるお気に入りのカフェを予約した。
「久しぶり〜」の声色と表情で何か嬉しいことがあったのを確信した。彼女は大学を出て地元で公務員として働いている、はずだった。
「実は、公務員辞めたんだ。それで、イラストレーターとして東京で働き始めたの!」
!!!
「めちゃくちゃ思い切った転職だし、親にも大反対されて、誰にも言ってなかったんだけど。ひと月勤めてやっていけそうだなと思ったから、一番初めに報告したかったんだ。」
心がぶわーっと膨張していくのが分かった。どうしよう。たまげた。この上なく嬉しい。
小学生の頃から同じ趣味を語り合った友達と、お互いに趣味の分野で働ける。私はこんなに幸せでいいのか。明日ウンコ踏んで滑って頭打って死ぬんじゃないのか。もしくはこの飛行機が落ちて死ぬ。
そこからは最近仕事で嬉しかったことや、先輩風吹かしてアドバイスなんかもしたりして、朝方の雀もたじろぐ勢いで仕事について語り合った。家に帰っても私たちの頬はきっと緩みっぱなしで、二倍にも三倍にも、自分の仕事に誇りを持った1日となる。次は酒を飲もうよ。