ワキガの女

きっと誰しも「好きな人間」と「嫌いな人間」が存在する。書いた直後に逃げ道を作るようで悪いが、私は割と人を"嫌い"というほどに嫌いにはならない。改めて言い直すとすれば、「好きな人間」と「苦手な人間」でカテゴリーを分けている。


以前、郵便局の仕分けシステムの映像をテレビ番組で見かけた。ベルトコンベアーで運ばれてきた荷物たちを、容赦無く、激しめに仕分けしていくその様に、何故だか涙が出そうになった。彼ら(荷物)は何も悪くないのに。そういった気持ちになった。

私はきっと、限りなく"やさしい"に近い心の持ち主なので、その「苦手な人間」フォルダに振り分ける時ですら、かなり申し訳ない気持ちでドラッグ&ドロップする。

そんな私が、だ。問答無用、平手打ちで「苦手な人間」フォルダへぶち込む人種がいる。それが、ワキガだ。それはもう郵便局の仕分けシステムばりに無慈悲に、だ。


人間誰しも、ワキに汗をかけば多少は臭いを放つものだろう。私だってそうだ。そんなの大いに分かっている。


しかしなワキガ、お前だけは許せないんだ。


私とワキガのエピソードを話すとしよう。

10代後半の頃、かなり頻繁に足を運んでいた古着屋があった。常連客の多い店で、当時の客はほとんどが顔見知りだったと思う。その中に一人、アラサーの古株女が居た。アラサーの古株女なんて嫌な書き方をしたが、家が近かったこともありすごく良くしてくれた。


が、その女が、ワキガだったのだ。

店に来ると、先に臭いで気付くレベルの。


しばらくは耐えた。初めて本物のワキガに遭遇したうぶな私は、どうすれば良いか分からなかったのだ。さらには10歳ほど歳上、店が出来た頃から通い詰めている、言うなればその店カーストの頂点に君臨する者。指摘なんて出来るはずもなく。


最終的にはその臭いが染み付いてるような気がして、店に行くことすら拒否反応が出るようになってしまい、断腸の思いで徐々にフェードアウトした。



割と最近の話になるが、その店で知り合った友人たちと5年振りに食事をした。


どうやら彼女、結婚したらしい。

当時から付き合っていた恋人と。


わあめでたいね、とふわっとしたリアクションが飛び交う中、一人が口を開いた。

「今だから言えるけどさ、彼女、臭いキツくなかった?」

全員が一瞬固まった後、土石流のようにワキガへの愚痴大会が始まった。なんだ、みんな同じ事思ってたのか。やっぱりみんな、クイーン・ビーもとい一軍のボスに何も言えなくて苦しい思いしてたのか。


一通り喋り倒して解散になり、帰り道が同じ子ととぼとぼ歩いていた。二人ともなんだかすごく疲弊していた。


その子の家が近づいた時、ぽつりぽつりと話してくれたことをほとんど一言一句覚えている。

ワキガの彼女にはとても良くしてもらっていたこと、でも私と同じように耐えられずフェードアウトしたこと、疎遠になってしまったみんなとまたこうやって会えて本当に嬉しかった、と。


その子の笑顔を見て、私の中で本件の解答が出た。ワキガは、周囲を、不幸にする。


怒りと悲しみがふつふつと沸いてきた。確かにすごく良い人で、みんな感謝している。でも、彼女の持つ"ワキガ"という属性一つでコミュニティを壊されたこと、それは紛れも無い事実だ。

つーかあんたの旦那、ワキガ気にならないのかよ。つーかあんたの旦那、出会い系で会った女と援交しまくってるってもっぱら噂だったぞ。大丈夫かよ。


「親でも殺されたのか」という例えがあるが、正直それとなんら変わらない。それぐらい恨んでる。彼女をというよりは、ワキガという属性にだ。私たちのユートピアを崩壊させた、ワキガにだ。




そんなことがあって以来、周囲を不幸、まではいかなくとも、モヤっとした気持ちにさせる、あのモワっとした臭いに平手打ちをかます人生となった。


ワキガ、無理!!!!!