オブラート

母の話をしよう。


私の母(52)は、怖いもの知らずの肝っ玉母ちゃんと言った感じの人種だ。

ハキハキ喋り、大酒を飲む。地域や学校の集会等へは必ず顔を出し、町を歩けば変な髪型をしたヤンキーたちが吸ってたタバコを慌てて隠し母に挨拶をする。

といった具合に地元の治安維持にそこそこ貢献してきたので、彼女を慕う人はかなりの数居るようだ。


私の無駄に強い正義感は間違いなく彼女から譲り受けたものだろう。




そんな母なのだが、彼女の性格で昔から困っていることがある。

それは、オブラートに包んだ発言ができないことだ。




過去の記事で登場したが、20歳の頃、私の元へ新車がやって来た。

母の友人が車屋をやっていたのでそこで購入したのだが、そうすると一つ問題があった。
ここで買われた車たちは皆、アホほどにダサい店のロゴステッカーが貼られているのだ。
街中で見かけるダサすぎる「NAKAMURA」のロゴ。私はこれを貼られるのが嫌で嫌でたまらなかった。


ということもあり、母に「あのステッカーは貼らなくて大丈夫っていうのを、遠回しに伝えておいてほしい」とお願いをした。


納車当日。
ウッキウキで車屋へ向かった私のテンションは、"ええじゃないか"ばりに急降下することになる。

なんと、愛しの新車ちゃんの後部ガラスに、それはそれは堂々とNAKAMURAの文字が鎮座していたのだ。

母の方を見る。

「ちょっと!ステッカー貼らないでって伝えてって言ったじゃん!」「いや、ちゃんと言ったよ。」「でも貼られてる!」と私が言い終わるより先に、母がズンズンと歩き出した。



そして、そのすこぶる通る声で

「ステッカー、ダサいから剥がしてだって!」

と言い放った。











あまりの豪速球に、静まり返る車屋。

2、3秒の間を置いて、苦笑いの店長が「すみません、剥がしますね!」と慌てて動き出す。



お、  お、  オブラート……



私はとにかく恥ずかしい。
そして遠ざかる意識の中で確信するのだった。

この人はきっと、このストレートすぎる物言いでこれまでに何人も殺してきたに違いない、と。