幸せのハードル
さり気ない優しさが好きだ。
最近、後になってあれはあの人なりの優しさだったのか、と理解することが立て続けにあった。
そのことを何度も何度も心の中で反芻しては、嬉しくてたまらない気持ちになる。
おばあちゃんが好きだ。
夜通しの麻雀で1万4千円負けた後、朝8時の中野駅で通勤ラッシュの時間が過ぎるのを、コーヒーを飲みながら待っていた。
眠気と格闘するタバコ臭い私に、朗らかな笑みを浮かべた可愛いおばあちゃんが話しかけてきた。「モーニングセットを頼みたいんだけど、AとBとC、あなたどちらが良いと思う?」と。「Aセットです。」と答えた私の眠気は吹っ飛び、その日1日を穏やかな気分で過ごすことができた。
街を歩いているだけで楽しい。
迷子猫の貼り紙を見て心配そうに母親に話す子供、待ち合わせスポットで恋人が見えて笑顔になる女性、面白い看板、イヤホンから流れる銀杏BOYZ、見たことのない花、綺麗に手入れされた民家の庭。
「あんたは幸せのハードルが低いよね」
そう友人に言われたことを思い出す。
昨日は夜は短し歩けよ乙女という映画を見た。原作の世界観が出ていて良い映画だった。
古本は苦手でどちらかといえば新品を買いたい派だったが、古本も良いなあと思い直した矢先だった。