そんなに繊細じゃない

「こないだのアレ、ああ言っちゃったけど、もしあなたが気にしてたら…と思って一週間モヤモヤしてたの。ごめんなさいね。」


割と親しくしているクライアントとの打ち合わせで、こんなことを言われた。
間髪入れず、「大丈夫です!全然大丈夫です!そんなに繊細じゃないので!笑」と私は答えた。少し笑いが起きて、そのまま打ち合わせは進む。


何でもない会話だった。実際一ミリも気にしていなかったし、そもそもそんなこと言われたのも忘れていた。
問題はそこじゃなくて、口からするりと「そんなに繊細じゃない」なんて言葉が出たことである。驚いた。私、いつから繊細でなくなったのだ。その後半日ほど、「そんなに繊細じゃない」は私の心中で反復横跳びを続けた。

 

プッチモニの歌詞ではないが、"繊細"を辞書で引いてみる。


繊細:感情などがこまやかなこと。また、そのさま。デリケート。


私の最後の"繊細"はいつだろうか。記憶フォルダをこじ開ける。
ああ、きっとこれだ。確か中学三年の時、めちゃめちゃ怖い体育教師にソロで呼び出されたことがあった。狭い体育教官室で促され着席し、体育教師が口を開いた瞬間涙腺ダムが決壊した。怒られるかどうかも分からないのに。むしろ褒められるかも知れないのに。なんかもう状況だけで泣いたあの日。あれがきっと、私の最後の"繊細"だ。

 

繊細でなくなったのか?
確かに、自分に向けられる他人の言動に対し、「昔なら怒ってたな」だとか「昔なら落ち込んでたな」なんて思うことが増えた。


たくましくなったし、きっと器も大きくなった。
それでも、繊細さを完全に手放すのは怖い。推測でしかないが、感性が欠落してしまう気がするからだ。感情ではなく感性。そうなると私は職を失い、そのままごろごろと転げ落ちるのだろう。そういう未来が待っている、気がする。

 

自分でこんな発言をしたからこそ、己の心に気配り目配りしてあげよう、と強く感じた一日だった。