たぶん明日死ぬ

今年何度目の飛行機だろうか。手持ち無沙汰になりがちなので、またこうして雲の上で文字をしゃらしゃら打っている。


私の前の席が少し歳の行ったお父さんと1歳くらいの男の子で、椅子越しに私のことを覗いてきては目が合いにこ〜っとしてくれる。


子供は国の宝なんてしょうもないことを最初に言ったのは誰だ?ま、今なら照れも疑問も迷いも抱かず心に落ちてくるが。チョー可愛い。私みたいな大人にならないでくれ、というほど大した人生も歩んでなければ歪んでもないと思うのでそれなりに普通の人生を歩んでくれ、坊やよ。




私は絵を描くのが好きな子供だった。将来の夢は一貫して漫画家で、小学校高学年〜中学1年生頃に至っては大好きだった雑誌「マーガレット」に描いたものを送ったりもしていた。


その頃同じように雑誌へ投稿していた愛里ちゃんというクラスメイトがいて、あの雑誌の今月号がどうだ、あの作者がこうだ、といった話を彼女とするのがとにかく私にとっての幸せの時間だった。


私はクラスの中心的存在で、彼女はどちらかというとおとなしいグループの子だったが、冷めてるというか個人主義というかフランス的な側面を持ち合わせていた私は思春期においての鉄格子とも取れるクラス内カーストを完全に無視し、彼女との友人関係を続けた。大人になった今もそれなりに仲が良く、年に一、二度突発的に深夜のドライブへ誘ったりする。



漫画家にはなれはなかったものの、それに近いような仕事をしているので私は恵まれているんだと思う。自分の好きな事で飯を食えるというのはこの上なくありがたいことで、リアルな程度二日に一度は仕事が楽しいと感じるし、つい先日好きなバンドから仕事の依頼が来た際は天にも昇る心地だった。



そんな中、珍しく彼女の方から連絡が来た。「東京に居るから、会って話したい」と。何事かと思いつつ、私にしては珍しく酒ではなく茶ミュニケーションを選択し、恵比寿にあるお気に入りのカフェを予約した。


「久しぶり〜」の声色と表情で何か嬉しいことがあったのを確信した。彼女は大学を出て地元で公務員として働いている、はずだった。


「実は、公務員辞めたんだ。それで、イラストレーターとして東京で働き始めたの!」



!!!



「めちゃくちゃ思い切った転職だし、親にも大反対されて、誰にも言ってなかったんだけど。ひと月勤めてやっていけそうだなと思ったから、一番初めに報告したかったんだ。」


心がぶわーっと膨張していくのが分かった。どうしよう。たまげた。この上なく嬉しい。


小学生の頃から同じ趣味を語り合った友達と、お互いに趣味の分野で働ける。私はこんなに幸せでいいのか。明日ウンコ踏んで滑って頭打って死ぬんじゃないのか。もしくはこの飛行機が落ちて死ぬ。


そこからは最近仕事で嬉しかったことや、先輩風吹かしてアドバイスなんかもしたりして、朝方の雀もたじろぐ勢いで仕事について語り合った。家に帰っても私たちの頬はきっと緩みっぱなしで、二倍にも三倍にも、自分の仕事に誇りを持った1日となる。次は酒を飲もうよ。