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世にも奇妙な処女物語

いつも丁寧に巻かれた髪、小さな顔、長い手脚。毎日の化粧で肌は少し荒れているが、誰が見ても美人カテゴリに分類するであろう友人がいる。

彼女の親は金持ちかつぶりぶりに娘を溺愛しており、本人はというと私大と私大をダブルスクールで通い、代官山で家賃15万の家に住み、常に色のキツいブランドバッグを持ち歩いている。もちろん親の金で。

こう文字だけ並べるとクソ女の香りしかしないが、私は結構彼女のことが好きだ。




彼女は高校の同級生である。しかし高校を出てしばらくは、遠方に住んでいることもあり全く会っていなかった。

ふと何かの拍子で飲みに行くことになり、3年ぶりに会うことになった。
共通の友人にそのことを話すと、「あの子、まだ処女らしいよ。こないだの飲み会で言ってた。」との情報を頂いた。

彼女の高校時代の恋愛を思い返す。ああ、確か白井という先輩と付き合って、チャラいくせに実は童貞だった、不慣れなのでなかなか先に進まない、と愚痴っていたな。あとは、他校のイケメンと付き合ったりだとか、その容姿もあって数多くの恋愛をしていたな。なのに処女なのか。この歳で処女というだけでだいぶ貴重なのに、よりによって彼女が。まるで嘘のような話だな、そんなこともあるもんなのだな。確かそんな風に思った。





「初体験いつ?」

渋谷の飲み屋で、彼女のビールが2杯空いたところで切り出してみた。「実はまだなんだ〜。」そんな答えが返ってくることは十分承知だが、あくまで知らない体で聞いてみた。


「大学入ってすぐだから、18の時かな。」


え???

あれ?????

脳が少々パニックに陥った。あれ、処女、じゃなかったのか。いや、処女であって欲しいとかそういうことでは全くなくて、なぜ、みんなの前で嘘をついた?それ、嘘をつくメリット、あるのか?

笑顔の下では動揺しながらも、掘り下げて聞いてみた。

「そうなんだ。誰と?」

「予備校が一緒だった、当時の彼氏。写真見せたような気もするけど、覚えてる?」

あ、ああああー見たわハイハイ、なんか細長くて茶色い男な。覚えてる覚えてる。

そこから彼女はべらべらと、経験人数が4人であることや初めての時のシチュエーションや今の彼氏とのセックスエトセトラ、を土石流のごとく喋った。

なんなんだこいつ、このぶっちゃけ具合、……めっちゃ面白いじゃんか。なのになぜ処女だなんて嘘をついた?考えれば考えるほど分からなくて、上げた口角で固定した表情筋の下は大忙しだった。

結局その日は、散々下ネタを話したあと2人ともベロベロに酔った状態で解散した。つまりは結構楽しく飲んだ。が、処女の話は聞けなかった。突っ込めなかった。





後日。

私と、彼女と、同じく高校の同級生のA君、の3人で飲んだ。

これまたビールが2杯空いた頃、自然と話題は恋愛の話になった。
しかし主に言葉を発していたのはA君で、最近彼女がどうだこうだ、胸の大きい後輩の女の子があーだこーだ、それこそ大学生らしい軽快な下ネタを楽しそうに話していた。

そこで、ついに私は目撃者となってしまう。

「そっか、お前はまだだったよな。こういう話、やめとくか。」

私はもう、さすがに今回は"大"パニックである。顔をそちらへ向ける勇気もなく、固まった表情で眼球だけを左隣へ移動させた。

彼女は照れたような表情で、一言だけ、こう言った。

「うん。」



ハーーーーーーーーッつつつ、どういうことだどういうことだ、もしかして彼女に私は見えていないのか?もしかして私、死んでるのか?確かに彼女は照れた表情のまま、こちらへは視線を寄せない。死んでるのかー私、はー。


困惑に困惑を重ねた私は、結局その日も泥酔し、気が付けば家の玄関で座って靴を脱いでいた。

また聞けなかった。ていうかさすがに尻込みした。恐怖すら感じた。

二重人格?虚言癖?彼女なりの媚び?私の知らないだけで処女だと松屋一年無料キャンペーン中?もしくは私彼女にめちゃくちゃ見下されてる?それともそういう性癖?

分からない。分からなさすぎるし、私ごときの人生がこうも奇妙な物語に巻き込まれるなんて。ありがてえ。



結局その日から半年経った今も真相は聞けずじまいの分からずじまいだし、彼女とは相変わらずウマが合うのでぼちぼち仲良くやっている。

彼女の好きなところを一つ挙げるとしたら、「育ちが良いくせにどこか品が無いところ」だろうか。

最近初めて彼女の家に泊まったのだが、部屋は物で溢れていて、慌てて片付けたことがバレバレなホコリの積もった家だった。
どこどこのジュース飲んで5分でお腹下した、みたいな最高にしょうもない話をLINEで急に送って来たりもする。

その素敵な容姿からは想像がつかないほど、私をワクワクさせたり、安心させたり、ハラハラさせたり、世にも奇妙な処女物語に巻き込んだり。こんな人なかなか居ないもので、結局のところ私はどうか末長く友人で居てくださいと願ってしまうのだ。