タラコのオニギリと赤ちゃん電球
実家にいると色々なことを思い出す。
私は高校に入学するまで、"タラコ"の存在を知らなかった。
我が家の献立にタラコが使用されたことは過去に無く、「た〜らこ〜、た〜らこ〜」というあのCMは"メンタイコ"のことだと思っていた。タラコという概念を知らずして高校生になったのである。a.k.a.タラコ知らずのJKなのである。チェキ。
別に献立主である母親が意図的に工作したという訳ではない。たまたまタラコの出ない家庭で、かつ外でものらりくらりかわして育ったようだ。
高校に入ってしばらくは、どの子も母親が持たせてくれた弁当を食べていたように思う。
私には新しくできたせっちゃんという友達が居たのだが、昼食を一緒に取った際に衝撃を受けることになる。
せっちゃんがかじったオニギリの具が見えた。白い、小さなたまご…?私は本気で、「ししゃもの腹」だと思った。あ、ふうん、この子んちはししゃもをオニギリにするんだ。変わった家だな。そんな風に考えながらも、一応尋ねてみる。
「それ、具、なに?」
答えはもちろんこう返ってくる。
「ああ、タラコだよ。」
…?メンタイコのこと?
ああ、この子んちはメンタイコのことをタラコと呼ぶんだ。そっち派なんだ。なんて風に思った。思い込みというのは本当に怖い。
「食べる?」
せっちゃんは白いツブツブを白米と海苔で包んだそれを私に差し出す。
一口いただく。
「……………………!」
メンタイコじゃ、ない…!
そして、うまい!ナンダコレハ!!!
帰宅した私は高めのテンションで母親にそれを話した。そこでやっと、真実を知ることになる。
先日、友人とお茶している時にこんなことを聞かれた。
「自分ち特有の物の呼び方、ってある?」
はあ、うーん、「テレビのリモコンをチャンネルって呼ぶんだよねー、うちの家」っていうのはよく聞くけれど、私んちは特に無いかなあ。
友人は続けて話す。
「僕んちはさ、あるんだよね。豆電球のことを、"赤ちゃん電球"って呼ぶ。」
突然の申告に文字通りブフォーーーー!!!となった。
「中学の修学旅行で、クラスの男子全員同じ部屋で寝たんだけど、その時に思いっきり『そろそろ赤ちゃん電球にしよう』って発言して大恥かいた。そんで、思春期だったし、帰って第一声ブチ切れたんだけど、母親はこうなることを期待して意図的に教えなかったらしく、大笑いしてたね。まんまとやられた。」
なんだそれ。面白すぎるだろう。うちの場合はたまたまだったけど、意図的パターンもあるのかよ。無垢、怖。大人、怖。
彼は未だにこのことを思い出し恥ずかしくなるそうだが、私の場合はかえって母に感謝している。事の反動か、今ではタラコのオニギリが大好物なのだ。コンビニへ行けば大抵あるようなものでも、私にとっては特別感のある食べ物と成った。タラコLOVE〜。
母とジョディ
ベローチェがベロチューに見えた。私だ。
彼女は突然私たちの生活に現れた。
名前はジョディ。母の友人だ。フィリピンで生まれ、私の故郷沖縄で暮らして10年になる。
母とジョディの出会いは変わったものだった。
私の母は外でお酒を飲むのがとにかく好きな人で、様々な飲み屋を渡り歩いている。
話は戻り、ジョディは"フィーbar"というネーミングセンスの欠片も無い、それこそ場末のバーで働いていた。
「ジョディが元旦那にストーキングされている」と。
鬼のようなメールと電話、待ち伏せ等ストーカーのテンプレ的行為に、一人暮らしのジョディは相当疲弊していたそうだ。
正義感強すぎ系女子のハブ酒はいてもたっても居られず、その場で「私がしばらく一緒に行動してあげる」と申し出たそうだ。
二人が親友になるのに時間はかからなかった。
ジョディはとても陽気な性格で、料理が上手く、母性に溢れた人だ。ジョディには息子が居るのだが、関西の大学に通っているためきっと寂しいのであろう、我が家へ来ては食事を作り、私たち兄弟にとても良くしてくれる。ちなみに我が家も、父は単身赴任、私は東京で一人暮らし、母は弟と2人で暮らしているのだが、共に子育てが落ち着いており境遇も少し似ている。
年末には、母と弟でジョディの実家フィリピンへ遊びに行くほどになっていた。それはそれは大層なもてなしを頂いたそう。
ジョディはたまに我が家に泊まっていく。ジョディは母の寝室で一緒に寝るのだが、修学旅行の晩のように2人でキャッキャウフフ楽しそうに話している声が聞こえると、私はとても嬉しくなる。
そして今月。母の念願だった飲み屋を、ジョディと開くそうだ。私は嬉しくてたまらない。
子育てが落ち着き新たな楽しみを見つけ楽しそうな母。この歳で親友が出来る母。
私もこんな人生を歩みたいな、と強く思う。
オブラート
母の話をしよう。
私の母(52)は、怖いもの知らずの肝っ玉母ちゃんと言った感じの人種だ。
ハキハキ喋り、大酒を飲む。地域や学校の集会等へは必ず顔を出し、町を歩けば変な髪型をしたヤンキーたちが吸ってたタバコを慌てて隠し母に挨拶をする。
といった具合に地元の治安維持にそこそこ貢献してきたので、彼女を慕う人はかなりの数居るようだ。
私の無駄に強い正義感は間違いなく彼女から譲り受けたものだろう。
そんな母なのだが、彼女の性格で昔から困っていることがある。
それは、オブラートに包んだ発言ができないことだ。
過去の記事で登場したが、20歳の頃、私の元へ新車がやって来た。
母の友人が車屋をやっていたのでそこで購入したのだが、そうすると一つ問題があった。
ここで買われた車たちは皆、アホほどにダサい店のロゴステッカーが貼られているのだ。
街中で見かけるダサすぎる「NAKAMURA」のロゴ。私はこれを貼られるのが嫌で嫌でたまらなかった。
ということもあり、母に「あのステッカーは貼らなくて大丈夫っていうのを、遠回しに伝えておいてほしい」とお願いをした。
納車当日。
ウッキウキで車屋へ向かった私のテンションは、"ええじゃないか"ばりに急降下することになる。
なんと、愛しの新車ちゃんの後部ガラスに、それはそれは堂々とNAKAMURAの文字が鎮座していたのだ。
母の方を見る。
「ちょっと!ステッカー貼らないでって伝えてって言ったじゃん!」「いや、ちゃんと言ったよ。」「でも貼られてる!」と私が言い終わるより先に、母がズンズンと歩き出した。
そして、そのすこぶる通る声で
「ステッカー、ダサいから剥がしてだって!」
と言い放った。
あまりの豪速球に、静まり返る車屋。
2、3秒の間を置いて、苦笑いの店長が「すみません、剥がしますね!」と慌てて動き出す。
お、 お、 オブラート……
私はとにかく恥ずかしい。
そして遠ざかる意識の中で確信するのだった。
この人はきっと、このストレートすぎる物言いでこれまでに何人も殺してきたに違いない、と。
突然の非日常
気が付けば所沢に居た。本当に、真剣に、神隠しにあったのかもしれない。
昨日は友人3名と大宮で食事をした。その後確か19時ごろにお開きとなり、うち1人の帰る方向が同じだったので途中まで一緒に帰ることに。
JR大宮駅。電車がちょうど来ていたので、我々は足早に湘南新宿ラインへ乗り込んだ。
東京は花粉がひどい。友人も私も花粉症、車内は程よく空いていて、さらに座った椅子はちょうど良く暖房が効いており、眠気メーターがMAXを振り切る条件は揃っていた。
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
ああ、気持ちいいなあ。
ふと電車のアナウンスが聞こえてきた。
「次は〜東所沢〜東所沢〜」
……………………!?
一瞬で眼が覚める。
所沢?所沢って、あの所沢?いやどの所沢だよ、なんとなく遠いってことは分かるけど実際地図上のどの辺りなのかさっぱりだぞ。
友人を叩き起こす。
慌てて電車を降り、地図を確認し愕然とする。「家まで、1時間40分かかる…。」
……こんなことある?東京ですよ????
ここから1時間40分かけて帰るのか、と肩を落とし、反対方面の電車に乗ろうととぼとぼ歩き出したところで、ふと思い出したことがあった。
「所沢って、有名な温泉なかった?」
40分後には、月を見ながら露天風呂に浸かっていた。
良い。すごく良い。
さっきまで都会の喧騒に揉まれて居たのに、今はこんなに夜風が気持ちいい。サウナとかやっちゃって、自律神経も整えちゃって。
1時間ちょっと温泉を満喫して、ホカホカになった友人とふたたび合流した。そうそう、友人は男性なのだ。
日曜の22時すぎだというのに、併設された食堂は満席に近い。タコ焼き、ゲソ、枝豆、生ビールを頼む。
最高だ。最高すぎる。ビールが美味すぎる。
ほろ酔いの友人は口を開く。
「このシチュエーション、まだ付き合ってない好きな子とやりたい。帰りたくないねーなんて話して。そんであわよくば終電逃しちゃったりして。」
100万%同意だ。なんで横にいるのが貴様なのだ。
それにしても、突然訪れる非日常がこんなにテンション上がるとは。
これからは積極的に、神隠しにあって行こうと思った夜だった。
眉毛を見ていた
友人より、「僕の同僚に、絶対にお前のタイプの男がいる。絶対にだ。」といった申告を受けた。
恋人居ない歴半年。そろそろ頑張りたいと思っていたタイミングだった(何を頑張るべきかはよく分かっていない)。
「今すぐ写真を見せやがれ」
私は答える。
写真を見る。
120点の爽やか笑顔を見せ、キッチンに立つ青年がそこにいた。
もはや脊髄反射的に
「タイプだ!!!!!!!」
と唱えた。
友人は続ける。
「何がアレかって、性格も絶対お前好みなんだよ。歳は2つ上。落ち着いていて、賢くて、仕事ができる。でも嫌味はない。しかも音楽好『紹介しろ!!!!!!』
食い気味で叫んだ。
そういった経緯の後、つい先日、爽やか青年と2人で飲んで来た。
友人の紹介、ってパターンがそもそも初めてだったのだが、これは少し難しいなと思った。
普通の感覚ならば始めは3人ないしそれ以上で会うのがセオリーのような気もするが、なんせ友人は小学校からの幼馴染。私の黒歴史から過去の恋愛、性癖まで全てを知っている人物の前で、いわゆる"女の部分"をさらけ出すのはどうにも恥ずかし死、である。
といった理由により、初っ端から2人で会うこととなった。ちなみにお相手は困惑していた。それが正しい。
場所は品川。
私がお誘いしたので、お店の予約やらは全て私が行った。
先に店に着く。トイレに寄って、鼻毛が出ていないかをチェックした。
彼がやってくる。写真で見た通りの、爽やかな笑顔を引っ提げて。
初めまして。そんな会話をして、生ビールを2つ頼み、乾杯した。
彼は写真の通りのサワヤカ好青年だった。
お互いの話を色々とした。
故郷の話、家族の話、趣味の話。
特に音楽の話をしている時と、私が麻雀を打てると知った時の彼はとても嬉しそうだった。
好感触だ。
趣味も合う、聞いていた通り賢くて、落ち着いたトーンで話す。そして素敵すぎるハニカミ笑顔。顔も髪型もすこぶるタイプだ。
彼に恋してもいいな、と思っている私がいる。肌感だが、彼もそう思っているように感じた。
だが。
どうも一点だけ気になるポイントがある。
それが、眉毛なのだ。眉毛の形が、ほんの少しばかり目に留まってしまった。
めちゃくちゃ細いとか、インド人ばりに手入れされてない眉毛といったわけではないのだが、こう、言葉で形容し難い不思議さがあるのだ。
"それ"に気付いてからは、もう無意識にずっとそこばかりを見ていた気がする。
マイナス要素として捉える程ではない。しかし、顔を見る度に目に留まってしまう。ダメだダメだ。見るな私。
気が付けば4時間も経っていた。終電より少し前に、お開きとなった。
ありがとうございました、といったメッセージのやり取りをし、その日は終わった。
それから少し間が空いて、先日久しぶりに連絡をしてみた。
すると、なんだか素っ気ないとも取れるような返事が返ってきてしまった。こうなると私はもうダメだ。
彼は、私が猛烈に眉毛を見ていることに気付いてしまったのだろうか。
それとも、ほかに何かダメなところがあったのだろうか。
それはもう、今となっては知る術もない。
ゲロに振り回される
1月1日の話を今更だが書く。
友人と初詣に行き、その後飲酒をした。
帰宅しようと山手線に乗ったのだが、そこには誰かが置いて行ったゲロがあった。
うわあ、と思いながらそこを避けて席につく。
終電も近かったが、幸いに乗客は少なく、いい感じにそこだけぽっかりと空間が出来ていた。
私は昔からとにかく正義感が強い。故に損なこともしばしばあった。
考える。
あのゲロは、いつから乗ってらっしゃるのだろう。山手線って恐らく終点という概念がなくて、ぐるぐる回るよな?
ということは、
・誰かがわざわざ駅員さんに報告しに行く
・駅員さんがたまたま発見する
といういずれかのイベントが発生しない限り、あのゲロはひたすら大都会東京を回り続けるのであろう。
私は即座にグーグル博士を頼った。
「電車 ゲロ 見つけた」
博士はこんな助言をくれた。
「ゲロの処理はおがくずで行います。」
いやいや、今知りたいのはそこじゃない。こちとら酒も入っているというのに、おがくずというインパクトのある4文字で残り僅かな脳内処理能力を消費させないでくれ。
続いてこんなことも教えてくれた。
「ゲロがあるという報告を駅員が既に受けていた場合、次の駅もしくは終点に清掃員を待機させて清掃を行うことがある」
ああ、それそれ、なるほど、そういう可能性もあるのね。
ということは、ゲロが乗ってらっしゃるという情報を駅員さんが既に得ていた場合、分刻みで近い将来、清掃員さんが見事な腕さばきでブツをかっさらって行くかもしれないのか。それなら、少し待とう。そう思った私は、みんな既にゲロのことなんか気にしていない中、ひとり緊張し椅子に座っていた。
新宿を過ぎる。来ない。
新大久保、高田馬場、目白…
池袋に着いてしまう。私はもう間も無く降りねばならない。急に焦りが出て来た。
もし次で私と入れ違いに清掃員さんが来なかったら…?
目の前のドアから降りたとしても、駅員さんがどこに配置されているか私には分からない。確実なのは先頭車両だが、人混みを掻き分け降りて、かなり早めの速度で歩いて命からがら先頭を目指したとしても、恐らく私が「ゲロが…!」と言うより先に発車ベルが鳴るであろう。となるとやはりホームに居る駅員さんを探すしかない。そして先ほど発車した山手線外回り電車の◯号車中程にゲロがありまして、と説明して、ああして、こうして……………
だめだ!!!!!
考えすぎて気分が悪くなって来た。私が吐きそうだ。人のゲロどころじゃない。
その時の私は、焦りから白目など剥きながら、もしかすると汗も垂れていたかもしれない。知らないけど。
池袋に着いた。私は一目散にトイレを目指した。
結局、冷静になった頃にはもう何本前の山手線になったかも分からず、私は微量の罪悪感を抱えながら帰路に着いた。
あのゲロはちゃんとおがくずで処理してもらえたのかな。正解かつ一番スマートなのはどんな行動だったのだろう。あの日以来、そんなことを考える毎日だ。
あけましておめでとう。
筆止まりとメリクリ
ぱたり、と書きたいことがなくなった。
というか、良くも悪くも仕事が忙しすぎた。私は在宅ワーカーなので、仕事が忙しい=ほとんど家から出なくなってしまう。つまりはネタがなかったのだ。
今日は、地獄のクリスマス連休を迎え撃つべく恋人のいない友人2名と待ち合わせをしている。
これから安いチェーン居酒屋で飲み倒した後、友人宅でソウを全シリーズ観ることになっている。2016年度Fuckin' worst Christmasで賞は私が頂くぜ。
30分ほど早めに着いたので、スターバックスで新作の甘ったるいドリンクを飲みながらこれを書いている。
どうせだから人間観察でもしよう。
まず目に飛び込むのが、左斜め前の長くて真っ直ぐな髪が綺麗なお姉さんだ。白いニットがとても似合う。お姉さんは正しい姿勢で何かを一生懸命書いている。目を凝らす。あ、年賀状だ。やってる事まで美しいなあ、爪も綺麗だなあ、お姉さんはさぞ素敵な男性とクリスマスを過ごすのだろうな。
向かいの大学生らしき女は、ずっとニヤニヤしながらスマホを眺めている。参考書とノートを開いてはいるものの、少なくとも私が席に着いて15分はスマホをいじっているのみだ。ニヤニヤしているその顔はとても可愛いとは言えないし、ミッキーマウスの筆箱はそろそろやめたほうが良いと思うぞ。君はきっと女子会するんだろうな、クリスマス。
右斜め前にいる30代中盤であろう女性は、恐らくライターだ。ワードプレスらしき画面にひたすら文字をしこしこ入れている。持ち物もシンプルにスマホと名刺入れのみ、きっと仕事ができるのではないか。金曜の夜までお仕事お疲れ様、あなたがキュレーションメディア騒動の余波を受けていないことを願うよ。早く原稿上げて自宅へ帰れるといいね。メリークリスマス。
待ち合わせ時間になった。
さ、焼き鳥ビールを始めよう。
メリークリスマス!